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いまこそ「相続時精算課税制度」について知っておきたい(2/2ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/12/21

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ある土地の近くに鉄道の新しい駅ができる計画が持ち上がったとすると(最近でいうとリニア中央新幹線などが典型例)、その土地は将来かなりの割合で高騰する可能性がある。土地の値段が上がる前に贈与しておくことで、贈与しなかったときの相続財産よりも相続税課税価格が低くなり、結果的に相続税が少なくなる。

また、「儲かっている同族会社の事業承継」で威力が発揮される場合もある。どういうことかといえば、父親が社長で息子が専務の非常に儲かっている中小企業があるとしよう。会社の株式は100%父親が持っているとする。そこで60歳に父親が引退することにして、会社の規定どおり「役員退職金」をそこそこの額でもらって会社を辞める。

儲かってはいても中小企業であれば、高額の退職金を払った瞬間には会社の財務状況は一時的に低下する。そうすると株式の評価額が下がるから、そのときに「相続時精算課税制度」を利用して父親から息子に株式を贈与しておけば、父親が亡くなってから相続で株式を取得するよりも相当に低い価格での株式の承継が実現できる。

持ち株ゼロから100%株式をもつオーナー経営者になった息子は、頑張って会社の業績を向上させれば、収入だけではなく持ち株の価値も向上するので、仕事への意欲も湧いてこようというものだ。相続税の節税だけではなく、会社の業績向上にもつながればまさに一石二鳥だろう。

ただし、相続時精算課税にはデメリットがあるので要注意だ。相続税の基礎控除額の範囲内におさまる遺産しかなければ気にしなくてもいいのだが、相続税がかかる最大の要素が不動産である場合に、「贈与した不動産は相続時に小規模宅地等の特例を受けられない」という点だ。8割も評価額を減らせるのにそれができないのは大きなデメリットになる。

また、不動産を贈与する時に名義変更にかかる登録免許税は、相続に比べて5倍と割高なのだ。不動産の贈与は慎重に検討するべきと言えるだろう。

また、相続時精算課税制度を利用して贈与を行った後では「暦年課税制度」は二度と使えなくなる。近い将来暦年課税制度が大きく変更される可能税が高いとはいえ、今はまだある「もらう側が1年間に110万円まで非課税」という大きなメリットを簡単に手放すのも難しい。今は金融資産の多い富裕層の相続対策は悩ましいタイミングになったということだろう。

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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