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相続法改正シリーズ #2 実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「遺留分侵害額請求権」(2/3ページ)

藤戸 康雄藤戸 康雄

2021/08/30

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旧制度ではどんな弊害があったか?

「長男は、先に亡くなった母さんが寝たきりになって亡くなるまで、忙しい仕事の合間を縫って嫁と一緒に介護に努めてくれた。晩年は私も足が不自由になって、外出するたびに車椅子を押してもらったりと苦労をかけた。だから、私が過ごして思い出のいっぱい詰まった自宅は、ぜひとも長男に相続してもらいたい」

このように考えた父親が、「長男に自宅を相続させる。次男には銀行預金全てを相続させる」などと書いてある遺言を残して亡くなったとしよう。自宅不動産の価値は4500万円で、銀行預金が500万円(東京などの大都市では、ウサギ小屋と言われるような小さな戸建てでもこれくらいの価値がある場合が多い。そして、高齢化が進んだ現在の日本では、定年退職した父親が長い老後期間に、退職金そのほかの金融資産を使い減らしており、預貯金が少ない場合も多い)である場合で考えると、次男の法定相続分2500万円の半分である1250万円が遺留分となる。

遺言通り長男が実家を相続すると、次男の遺留分を750万円(1250万円-500万円)侵害していることになるのだ。

次男が旧制度である「遺留分減殺請求権」を行使した場合、実家不動産(4500万円)のうち、750万円部分(所有権の6分の1)を次男が取得することになる。次男が承諾しなければ、長男は実家に住むことはもちろん、売ることも貸すこともできなくなってしまう。せっかく父が長男への想いを込めて残した遺言は、実現しなくなってしまう可能性が出てくるのだ(もちろん、次男が遺留分減殺請求権を行使しなければ遺言は実現する)。

新制度「遺留分侵害額請求権」ではどうなる?

「遺留分侵害額請求権」とは、一言でいえば「遺留分を侵害された金額(上記の例でいえば750万円)を侵害している相続人(上記の例では長男)に金銭債権として請求できるだけの権利」になったのだ。

したがって、長男は遺言によって実家不動産を完全に所有することができる一方で、弟に750万円を支払う義務があることになる。万一、一括で払えない場合は、裁判所の許可を得て分割払いなども可能となった。上記の例では、おそらく自宅を担保にして金融機関から750万円を借りることができるだろうから、相続争いはあっという間に解決できることになる。

旧制度「遺留分減殺請求」の場合だと、次男が既に所有権の一部を取得しているために「共有物」となり、2人の意思が一致しなければ金融機関からの借り入れはできない。次男が「実家を売って売却代金の中から750万円を渡してほしい」と言っても、亡くなった父の遺志を尊重したいとして長男が売却を拒めば、この相続争いは決着しないのだ。最終的には家庭裁判所に持ち込まれることになり、解決まで長期間を要することになる。

旧制度と新制度は言葉のうえでは「減殺請求」と「侵害額請求」と大きな違いがなさそうに聞こえるが、実は相続争いの解決という意味では大きな違いがあるのだ。

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この記事を書いた人

プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。

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