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アフター・コロナ――「タワマン大暴落と郊外の家でリモートワーク」新しい生活様式のウソ

浅野夏紀

2020/06/07

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何かあるとヤリ玉になるタワマン暴落の根拠とは?

「コロナで三密の都心のタワマンは売れなくなる」、「在宅勤務で郊外の住宅が見直され、都心の高額物件は暴落が始まった」といった報道が緊急事態宣言後に増えている。

「タワマンは狭い通路やエレベーターでコロナに感染しやすい」、「無理してタワマン買ったパワーカップルはコロナで路頭に迷う」という指摘も、コロナ報道の時流に乗っていた。さらに「湾岸エリアは津波や液状化」、武蔵小杉のように「内陸のタワマンは意外と脆弱」のうえに「コロナが襲ってきて大暴落」するので、「住民が逃げ出し始めた」という畳みかけた記事も主要雑誌の定番だ。

果たして、本当に新型コロナウイルスはタワマンを資産価値ともども倒してしまう恐るべき力があるのだろうか――。

そもそも「不動産、建築・建設は古い業界なので、変わる、変わるといっても、どっこい全く変わらないものだ」という指摘もある。そのため社会的、あるいは経済的な変化があるとこうしたが話が出ては消える。バブル崩壊後はこうした傾向は強い。新型コロナウイルスの衝撃を近未来のストーリーにして深刻な経済難で不動産の価値が問い直される中、「暴落」するのはどんな不動産なのか? コロナの衝撃で、「常識」がひっくり返り、価値観や金銭感が揺さぶられるのではないかといった不安や期待があるのかもしれない。それにジャストミートしたのが「タワマン暴落論」だった。

「タワマンこそは三密空間」、「タワマンが建つエリアは湾岸でそもそも液状化しやすい」といった前提で、そもそもそんな危ないタワマンを買うのは「見栄っ張り」で、生粋の東京人は買わない」といった購買者の内面を攻撃するような記事も出た。しかし、どうみても客観的な証拠が不足している。そもそもタワマンが湾岸に一応に立地した過去数年、タワマン購入者は近隣に住む人が多いのが特徴だ。例えば、人口急増中の東京都中央区は、人口の流入・転出は近隣の区の割合が半数を超える。湾岸エリアのタワマンの最大の需要家は都民なのである。

絵に描いた餅? リモートワークで余裕のある生活

さて、都心物件が「過去の遺物」なるかどうかは、実は消費者のマインド次第だ。マイホームに年収の何倍も投じる方々の不動産に対するスタンスや投資法はかなり保守的である。実際に郊外移住はどの程度進むのか? それを如実に示すのが、次のような数字だ。

東京23区は619k㎡なので、そのうち半分のエリア、つまり都心から半径10キロ圏(314k㎡)で住むサラリーマンで在宅勤務ができる人が、仮に推定50万人から100万人程度存在したとしよう。そのうち、10万人が郊外(都心から50~70キロ圏、7300k㎡に住宅を移すとする。一方、コロナが収束した平時においても在宅勤務が週3日以上できる企業は少ない。大企業や上場企業に勤めるホワイトカラーでもごく一握りで、可能なのはIT系ベンチャーぐらいだろう。

次に東京から50㎞~70㎞にあたる地域はどこになるのか。東京都は、青梅、八王子。神奈川県は横須賀、平塚、秦野、茅ヶ崎、伊勢原、小田原あたりまで。千葉県は成田、茂原、君津。埼玉県は飯能、熊谷 鴻巣、深谷のあたりまでだ。加えて茨城県も古賀、つくば、土浦周辺も加わってくる。つまり、高度成長時代に拡大した東京圏内で、いわゆる限界的通勤圏になる。しかし、この地域の現状は人口が減り、住宅は老朽化している。例えば、 “ニュータウン”と呼ばれるところでは高齢化進み、建て替えなどストック更新は遅れている。地価はバブル経済崩壊以降、ほぼ右肩下がりの地点がほとんどだ。

都会からこうしたエリアにこうした郊外に引っ越すのは世帯を10万と仮定すると、移動人口はおおよそ最大30万人規模ぐらい。だが、23区の7倍以上の広さを有する「東京から50~70キロ圏」に30万人程度の人口が、5年、10年かけて移動しても、地域への人口インパクト、不動産市場への押し上げ効果は少ない。それに現実には郊外への人口移動が「30~50キロ圏」で留まる部分もある。

郊外移住で人口減少のスピードを落とすことに多少なりとも貢献できても、「郊外の住宅の価値(価格)」を上げるというほどの数字でもなく、その勢いもない。「東京の一極集中がなくなり、郊外住宅地はリモートワークでバラ色になる」と思うのは自由だが、それが現実かどうかは住宅マーケットが冷徹に判断している。

ただ、「空想はロマン」なので、海や山の近くに住み、リモートワークで働き、自宅近くの海でサーフィン、あるいは空いた時間に森林浴を楽しめれば悪くはない。それが現実になればの話だが。

 

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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