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まちと住まいの空間 第27回 「ブラタモリ的」東京街歩き④――坂の「キワ」を歩く「本郷台地」(2/3ページ)

岡本哲志岡本哲志

2020/08/26

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本郷台地の「キワ」がわかりやすい湯島天神の「男坂」

「ブラタモリ本郷台地編」の番組は、湯島天神男坂下からはじまり、本郷台地のキワを辿る。


(図)江戸時代の土地利用をベースにした本郷台地。数字は番組で巡った順番

担当ディレクターは、高低差、崖、坂道を番組のお飾りではなく、真っ向勝負したというところだろうか。気合いを入れて、本郷台地のキワを「ブラタモリ」となる。番組では台地と低地とで構成される東京の地形に描かれた坂もしっかりと押さえられている。

とはいえ、タモリさんの著書『タモリのTOKYO坂道美学入門』に出てくる坂道は一つも登場していない。この本の初版が2011年10月24日。ブラタモリのスタッフは当然読んでいない。

本に掲載された本郷台地関連の坂道をあげると、千駄木の大給坂、西片町の福山坂、菊坂の鐙坂の3つ。上野台地側も入れると、富士見坂と三浦坂が加わる。番組で紹介された坂道はすべて空振りだが、これを比べるとタモリさんの「美学」と「ブラタモリ」スタッフのこだわりが番組での坂選びをせめぎ合っているようで面白い。


 
本のタイトルを「美学」としている以上、タモリさんの坂道に対する美的センスが大いにあらわれた坂の選択である。そのためか神田明神、愛宕神社、そして湯島天神の石段の参道はその名が知れた坂道だが、真直ぐなために選ばれていない。

これに対して番組の「ブラタモリ本郷台地編」では、菅原道真(生没:845〜903年)を御祭神とする湯島天満宮(湯島天神)の天神男坂下からスタートする。真直ぐな石段を坂道として語るには躊躇するタモリさんがいて、話題が高低差と崖の「キワ」に終始する。


天神男坂の上から崖下を眺める

番組の流れは台地と低地の間のキワ、斜面に落ち着いていく。タモリさんは「キワ」の魅力を語り、「女性の着物のキワ」の色気にこだわる。

東京の台地上は平坦である。なだらかに西から東に下る武蔵野台地は、気の遠くなる時間をかけて水の流れが削り取り谷をつくりだした。台地上は太古の時代から平坦であり、武蔵野台地の最も古い地形の記憶ともいえる。江戸時代以前からの境内へのアプローチは、南から平坦な台地上を真っ直ぐ湯島天神の表の鳥居に行きあたる。高低差の好きなタモリさんにとって、平坦な台地上は興味の範疇から外れるのだろう、平坦な台地には足が向かない。

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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