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BOOK Review――この1冊 『教養としての落語』立川談慶/著(1/2ページ)

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落語は、400年の歴史をもつ伝統芸能として、大衆の心をつかんで離さない娯楽の王道だ。現在では、ビジネスマンなら身に着けておきたい基礎的教養の一つにも数えられる。

ここ数年、ビジネススキル向上に効果があるとして、この落語を習うビジネスマンが増えている。巷にはプロの落語家が教える落語教室ものもあり、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力を伸ばすため、仕事帰りの会社員が、懸命に落語を練習しているという。プレゼンで、落語の一節や、有名な落語家の言葉をさりげなく織り交ぜながら、自社のアピールができれば、スマートで好印象を与える。また、目上の人に日ごろの感謝を込めて贈り物をする時、その人の好みに合いそうな落語のCDを選んで贈れば「オッ、わかってるな」と一目置かれるかもしれない。

そうは言っても、初心者には敷居が高く感じられることもある落語の世界。いきなり寄席に足を運ぶのはハードルが高いという人もいるだろう。そんな人におすすめなのが本書だ。本書は、慶應義塾大学卒で元ビジネスマンの経歴を持つ異色の落語家・立川談慶が、落語の成り立ちや、噺(はなし)の基本的な構成、知っていると一目置かれる落語の演目などについて、軽妙な語り口で解説する一冊。

同じ伝統芸能である歌舞伎や能、狂言についても触れられており、落語との相違点も知ることができる。ビジネスにも役立つ「教養としての落語」を、初歩から身に着けるのにうってつけだ。本の構成も入りやすいように、冒頭で大の落語好きとして知られる吉田茂の逸話を引用しながら、大衆芸能である落語が、なぜビジネススキルの向上と結びつくのかを解説している。

例えば1916年、時の首相・寺内正毅から首相秘書官のポストを打診された時、吉田は「総理大臣なら務まるかもしれませんが、秘書官はとても務まりそうもありません」と答えたという。また晩年、訪問客から顔色の悪さを指摘され、「何を食べているのか」と問われた時に「人を食ってます」と切り返したという逸話は有名だ。

当意即妙の切り返しは「この人は、どこか違う」と、周囲をハッとさせたことだろう。それだけでなく、シニカルでありながら、どこか憎めない人間味も感じさせる。これはまさに、かつて立川談志が語った「人間の業の肯定」たる落語の本質にも通じる。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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