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まちと住まいの空間

第5回 「伊豆・真鶴」のラビリンス空間①――すり鉢状の地形に成立した原風景(2/2ページ)

岡本哲志岡本哲志

2018/10/30

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原風景への誘い


かつて袋小路であったコミュニティ単位を形成する路地

「さあ、階段を降りてみましょう」といって階段を降りる。
「階段がなかった時の路地空間を想像してみてください」と語りかける。真鶴は津島神社以西の窪地に独特の居住空間をつくりだすエリアが浮かびあがる。地籍図に示されている枝番をすべて元の一筆に戻した時、真鶴の原風景があぶりだされる。

現在の真鶴は階段が多い。しかし、その多くは以前なかった道と道をつなぐ仕組みとして誕生したもので、真鶴の特徴的な路地はもともと袋小路であった。土地とその上に建つ建物は、路地を中心に一つの居住空間の単位をつくりだしていた。わかりづらい空間の仕組みのように感じるが、個々の敷地からは中心部へ、あるいは港へとスムースにたどり着ける。


真鶴の原風景を描く構造

このエリアを構成する基本骨格は、異なる 3 つの道である。
1 つは、津島神社から海に向う象徴軸としての参道で、集落と独立したかたちで海に延ばされた。
2 つは、等高線に沿う高低差のない道である。先ほどの話で、唯一残った広い道路である。これは周辺の集落と結ぶ道であり、同時に津島神社以西のエリア中央を貫く求心的な軸となる。坂の多いことも忘れさせる平坦な道である。

3つは、海へ通じる。比較的勾配のある道で、集落と港を結ぶ。通じる道の数は最小限に止められた。それは、自然の猛威を避け、快適な集落の環境を内側につくりだそうとした結果である。参道を除いた2つの道からは、斜面を背にして袋小路の路地が緩やかな地形を選ぶように道から派生し、奥に延びる。地形、あるいは敷地割りとの兼ね合いで、これらの路地は短く完結する。

この原風景となる道の構造は、ツリー(木)の枝に見立てることができる。羽田の回の時に「魚の骨」、あるいは「ぶどうのふさ」と表現した路地である。求心的な道を幹とし、そこから枝分かれする。最終的には袋小路の路地に至る。その袋小路を小枝に例えると、そこに葉や実がつらなるように、敷地が寄り集まり、まとまりのあるコミュニティ単位を構成する。この単位をここでは「ツリー・コミュニティ」の単位と呼ぶことにしたい。真鶴の敷地割りの基本は、「ツリー・コミュニティ」を描きながら、増殖し、ラビリンス空間を拡大させた。太平洋に直接面する厳しい自然条件のなかで、真鶴の選んだ初期段階の集住空間である。

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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