現代医学の病名から漢方薬を選んでも効果はない?(4/4ページ)
杉 幹雄
2020/09/23
便秘と冷え性――現代医学と漢方医学のアプローチの違い
病名投与からの漢方医学をとらえることに対する問題には漢方医学におけるからだの「寒熱」という現象のとらえ方ができないということもあります。
具体的に「便秘」という病態について解析していきましょう。
便秘が多いのは若い女性や高齢者です。現代医学では「便秘」という病名に囚われて、若い女性も高齢者も同じ治療をしています。ところが漢方医学から見ると若い女性の便秘と高齢者の便秘は全く異なります。若い女性は、生理が強いため下腹部が張って熱を持っていることが多く、高齢者はからだ自体に力がなく冷えていることが多いのです。
若い女性のように下腹部に熱があると、その熱はS状結腸や直腸に伝搬し水分吸収を強めて便秘の原因となります。一方、高齢者は腸が冷えて上手に蠕動(ぜんどう)運動や水分吸収ができず、便秘になります。そこで漢方医学では老人の便秘には温める治療を、逆に若い女性には下腹部の熱を取る駆血剤の投与が必要になります。このように同じ「便秘」でという病名であっても、同じ漢方薬を使うわけではありません。
漢方医学から見ると若い女性の便秘と高齢者の便秘は異なる/©︎bee32・123RF
次に「足の冷え」ということに着目して現代医学と漢方医学を比べてみます。
現代医学での「冷え」は「末梢循環障害」という病名で、基本的に血液の循環障害と考えます。このため循環をよくする薬の投薬をします。
一方、漢方医学では「冷え」の原因も2つに分かれていると考えます。1つ本当に冷えている場合、高齢者の下肢の冷えは血液の循環障害が原因による冷えが多く「陰性の冷え」になります。
もう1つは熱が強いため冷えを感じていることがあります。東洋哲学では「極陽は極陰に通じる」と言い、これは強い熱は冷えをもたらすことを意味しています。
若い女性の下肢の冷えは、下腹部に熱感が強く、張りによって起きやすい症状で、東洋哲学での「極陽の冷え」になります。そのためこうした冷えは暖めるのではなく、熱を取ることが必要に
漢方医学では「冷え」の原因は2つに分かれていると考える/©︎Attila Simo・123RF
今回は「病名投与」を通して現代医学と漢方医学の違いをお話しました。ここで示したように現代医学と漢方医学はまったく別の視点を持った医学なのです。そのため現代医学の「病名」から、漢方薬を使うことに無理があることがおわかりいただけたと思います。
しかし、この2つを組み合わせることで新しい医学への道が開かれることも推測できます。私の鍼灸師の恩師である故・谷佳子先生は「時代は鉛筆の芯を尖らせ次の時代を作る考えを待っている」と言っていました。この言葉の意味は、すなわち、2つの異なる医学を融合することで新しい医学を作って行く作業を次世代が待っているということです。そして、私たち日本人は、現代医学と漢方医学の両方からアプローチできる土壌をもっている
この記事を書いた人
すぎ内科クリニック院長
1959年東京生まれ。85年昭和大学医学部卒業。国立埼玉病院、常盤台病院、荏原ホームケアクリニックなどを経て、2010年に東京・両国に「すぎ内科クリニック」を開業。1975年大塚敬節先生の漢方治療を受け、漢方と出会ったことをきっかけに、80年北里大学東洋医学研究所セミナーに参加。87年温知堂 矢数医院にて漢方外来診療を学ぶ。88年整体師 森一子氏に師事し「ゆがみの診察と治療」、89年「鍼灸師 谷佳子氏に師事し「鍼治療と気の流れの診察方法」を学ぶ。97年から約150種類の漢方薬草を揃え漢方治療、98年からは薬草の効力別体配置図と効力の解析を研究。クリニックでは漢方内科治療と一般内科治療の併用治療を行っている。