現代医学の病名から漢方薬を選んでも効果はない?(3/4ページ)
杉 幹雄
2020/09/23
病気をミクロに追求した現代医学
さて、私が漢方医学を用いて患者さんを診察するときには、現代医学の病名は頭に入れていません。それは、アインシュタインが言っているように「知識は想像力をなくしてしまう」ことになるからです。
一般病名は現代医学が作ったものであって漢方医学とは無関係です。その無関係の病名から推測したのでは、適切な漢方の処方をすることが難しくなります。そこで私は、一度、現代医学と切り離しで、からだそのものを見つめる漢方治療をしています。訪れる患者さんの中には、本やネットで漢方薬を調べて来られる方も多いのですが、そのほとんどは不正解です。それは病名投与から漢方薬をとらえているからです。
しかし、漢方医学を採り入れている医師の中にも、こうした人が少なくありません。治療に漢方医学を採り入れるには、まずは病名投与の認識からいったん離れる必要があります。
そもそも病名投与を前提とした現代医学と漢方医療は根幹的に異なる医学であるということを理解しなければなりません。
西洋哲学を基盤とした現代医学は、物質文明の進化と共に発展してきました。産業革命以後、現代社会は、常により精密な機械をつくり出し、今ではミクロの世界が見えるようになってきました。こうした産業の進化によって医療研究も進み、現代医学は人の遺伝子まで解明してきました。しかし、遺伝子を解析してもそれを人間の身体に戻すことができていません。
一方、漢方医学は自然と人間の成り立ちを基盤にした東洋哲学を元に2000年前には、ほぼ完成されました。漢方医学は陰陽や三陰三陽、五行などで自然をとらえ、その自然とからだの関係をマクロに見てきました。これに対して、現代(西洋)医療はミクロ的にからだの臓器や病をとらえその原因を探してきたわけです。
前回、新型コロナウイルスに対する漢方薬のアプローチについて話しました。
現代医療は新型コロナウイルスそのものにアプローチするのに対して、漢方医学は新型コロナウイルスの症状に対してアプローチするという違いはあります。しかし、いずれも患者さんを重症化、死亡させないという目標は同じです。現代医学と漢方医学はまったく異なる体系の医学であるということを理解したうえで、これを結びつけた医学が次の時代の医学へとなるのだと思います。
もちろん、まったく異なる医学を結びつけるには単純で強固な考えの理論が必要です。とはいえ、実はこれらの理論はすでに数理学や理論物理の分野ではできています。あとは、この理論によって2つの医学の結びつきを確認し、実験や臨床で淘汰して行くことが今後の新しい医学への道のりとなるに違いありません。ミクロとマクロはある意味において陰陽であり、相対的思考を持って見つめれば近しい医学なのですから融合は可能だと考えられます。
この記事を書いた人
すぎ内科クリニック院長
1959年東京生まれ。85年昭和大学医学部卒業。国立埼玉病院、常盤台病院、荏原ホームケアクリニックなどを経て、2010年に東京・両国に「すぎ内科クリニック」を開業。1975年大塚敬節先生の漢方治療を受け、漢方と出会ったことをきっかけに、80年北里大学東洋医学研究所セミナーに参加。87年温知堂 矢数医院にて漢方外来診療を学ぶ。88年整体師 森一子氏に師事し「ゆがみの診察と治療」、89年「鍼灸師 谷佳子氏に師事し「鍼治療と気の流れの診察方法」を学ぶ。97年から約150種類の漢方薬草を揃え漢方治療、98年からは薬草の効力別体配置図と効力の解析を研究。クリニックでは漢方内科治療と一般内科治療の併用治療を行っている。