現代医学の病名から漢方薬を選んでも効果はない?(2/4ページ)
杉 幹雄
2020/09/23
西洋医学に合わせることで生き残った漢方医学
そんな時代に危惧した数名の医師により漢方が復興していきます。
その代表的存在が、和田啓十郎先生【1872(明治5)年~1916(大正5)年】、湯本求真先生【1876(明治9)年~1941(昭和16)年】、大塚敬節先生【1900(明治33)年~80(昭和55)年】や矢数道明先生【1905(明治38)年~2002(平成14)年】たちで、漢方医学を復興させ、現代の日本に残していったのです。
しかし、政府を説得するためには西洋医学と同じように漢方医学においても「病名投与」ができることをしめすことが必要不可欠な条件となりました。そこで漢方薬でも病名投与もできることを記るす本が必要になり、1941(昭和16)年、大塚敬節先生を中心に数人の医師の共著による『症候による漢方治療の実際』(南山堂刊)という本が出版されました。
この本が漢方医学を現代医学に入り込ませる一つの道でした。
しかし、同時に批判もされます。「日本東洋医学会」議長を務めた東大治療学の板倉武先生【1888(明治21)年~1958(昭和33)年】は「君たちのこんどの本を読んだが、あれは現代医学の病理学に降参した本だ。漢方の特質は一つも語らずに、現代医学に降参するようでは困る」と指摘。著者である大塚敬節先生もその真意を理解していたものの、漢方医学の普及を優先させるためには必要なことでした。
こうした紆余曲折を経て、今では漢方薬も保険適用の薬として病院やクリニックでも使えることができるようになったわけです。しかし、漢方薬を病名投与の枠にはめたことによって、やはり本来の漢方医学に姿と違ったかたちで広まってしまったように思うのです。そこで漢方薬が一般の方に一定の理解が得られた今こそ本来の漢方医学の姿を顧みるときだと思えます。
ロジカルからエモーショナルへ
では、実際にどうするか。
そのヒントになるが大塚敬節先生著作の『漢方ひとすじ』中の湯本求真先生と大塚先生のやり取りにあります。
「リウマチにはどんな処方が良いでしょうか?」と大塚先生が湯本先生に問うと、次のように答えます。
「リウマチなんてものは実在しない。実在しない幽霊みたいなものは、治療のしようがない。(中略)リウマチにかかっている病人は実在するが、リウマチという抽象的なものはどこにもないということである。だから、リウマチに悩んでいる人を診れば治療法は生まれてくるが、リウマチ一般に共通する治療はない」
分かりやすく言えば、関節の腫れによる痛みといった共通した症状に「リウマチ」という病名は現代(西洋)医学が便宜上付けただけのこと。そこでこの共通した「リウマチ」の症状に共通する治療を行うのが現代医学なわけです。
大塚先生からいただいた『漢方ひとすじ』(日本経済新聞社刊)
一方、関節の腫れや痛みといった症状を持つ人それぞれに合わせて処方を変えて治療を行うのが漢方医学ということなのです。つまり、西洋医学はロジカルに病気をとらえるのに対して。漢方医学はエモーショナルに病気をとらえると言えるでしょう。ですから、基本思想の違う西洋学の基盤である病名投与に漢方医学を当てはめるのは本来無理なことなのです。
この記事を書いた人
すぎ内科クリニック院長
1959年東京生まれ。85年昭和大学医学部卒業。国立埼玉病院、常盤台病院、荏原ホームケアクリニックなどを経て、2010年に東京・両国に「すぎ内科クリニック」を開業。1975年大塚敬節先生の漢方治療を受け、漢方と出会ったことをきっかけに、80年北里大学東洋医学研究所セミナーに参加。87年温知堂 矢数医院にて漢方外来診療を学ぶ。88年整体師 森一子氏に師事し「ゆがみの診察と治療」、89年「鍼灸師 谷佳子氏に師事し「鍼治療と気の流れの診察方法」を学ぶ。97年から約150種類の漢方薬草を揃え漢方治療、98年からは薬草の効力別体配置図と効力の解析を研究。クリニックでは漢方内科治療と一般内科治療の併用治療を行っている。