「建て替え~退去」を契約書で約束してもダメ 老朽化物件を貸す場合の大事な留意点とは(2/2ページ)
賃貸幸せラボラトリー
2021/11/26
定期借家が救ってくれるが…
では、オーナーはどうすればよいのか?
まずは、これから物件を貸そうとしているオーナーの場合、答えは「定期借家契約」となる。これまでに述べたとおり、賃貸人からの解約申し入れや更新拒絶が困難な「普通借家」に対し、契約で定められた期間の満了をもって、建物の賃貸借関係を確実に終わらせることができるのがこの定期借家制度だ。
すなわち、将来建物の取り壊し~建て替えが予想されるのならば、それに合わせた期間を契約期間として設定し、定期借家契約を結ぶことで、入居者の“居座り”を避けることができる。単純明快かつ究極の解決策といっていいだろう。
ただし、この方法にはデメリットもある。それは、募集が弱くなりがちなことだ。物件が定期借家物件となることで、通常の傾向としてマーケットからは選択を避けられやすくなる。「建物は古いし、しかも住める期間は限定されてるし」ということで、家賃を大幅に下げざるをえないケースも出てくるだろう。
一方、すでに物件を入居者に貸しているオーナーはどうだろう。「貸している」とは、いま述べた定期借家ではなく、従来の普通借家で貸しているということだ。
この場合は、入居者にお願いをし、現在の契約を一旦合意解約させてもらう方法を採る。そのうえで新たに同じ物件での定期借家契約を結ぶのがセオリーだ。
とはいえ、こうした「切り替え」については、オーナー側からはもちろん強制はできない。強制であれば、それはとりもなおさず合意ではなく、一方的な普通借家契約解約の申し入れとなる。すると正当事由が必要となり、要は話が振り出しに戻ってしまうかたちとなる。
加えて、定期借家制度の施行日である2000年3月1日より前に契約された居住用建物賃貸借契約(居住用に限られる)については、上記の切り替えができない。たとえ当事者間で円満合意したとしてもできないのだ。
これは、当初4年ほどで廃止されるともいわれていた入居者保護のための手厚い措置だが、現在も残り続けている。そのため、ある意味有名な、定期借家にかかわる制限となっている。(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法・附則第3条)
借地借家法39条は役に立たないのか?
さらに付け加えよう。借地借家法第39条のことだ。条文の見出しには「取壊し予定の建物の賃貸借」とあって、これを使えば取り壊し予定の建物を貸すことが容易であるように一瞬思ってしまう人もいる。
「……一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において、建物の賃貸借をするときは、第30条の規定にかかわらず、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができる」
しかし、実はそうではない。条文冒頭にはしっかりと触れられているが、これには条件があって、ここでの建物の取り壊しは「法令又は契約」により義務付けられているものでなければならない。
そこで「法令又は契約」とは何かといえば、例えば都市計画法などによる建物の取り壊し義務や、土地が定期借地であることによる建物の取り壊し・更地返還義務などがこれに当たるとされている。要は、該当させるためのハードルがかなり高いのだ。
オーナーが自身の将来の土地活用のために解体業者などと建物取り壊しの「契約」を結んでいるといったレベルでは、これには当たらないと解釈されているので、ぜひ注意しておきたいところだ。
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室