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数値が示す若年層賃貸住まいの高い自殺率 賃貸住宅オーナーとしてできることは何か(3/3ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2021/09/04

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季報を配るオーナー

このように、日本社会においては、そもそも若者が自殺しやすいという残念な傾向が見られるうえに、彼ら・彼女らが「賃貸一人暮らし」の環境におかれた場合、それがエスカレートする可能性もデータからは垣間見えている。

すなわち逆にいえば、賃貸住宅での自殺を少しでも抑えることは国や社会の未来を担う若者を無為なままに失う機会を減らす意味で、間違いなく意義深いものといっていい。

では、これら若者をはじめとする入居者の賃貸住宅内での自殺を抑えるにはどうすればよいだろうか。

それを考えるとき、多くオーナーは無力感を得るにちがいない。一部の例を除いてオーナーは入居者の自殺がもたらす影響を著しく被りやすい立場にありながら、一方で、彼ら・彼女らとの交流機会といえば非常に貧しく、乏しいものとなっている。要は気軽に声をかけられる関係性を持ちえていない。

そこでいえば、かつての下宿の家主など、いわゆる昔の「大家さん」のなかには日頃入居者と密接にかかわる中でまさにゲートキーパー(自殺を思いとどまらせるきっかけやカギとなりうる人)のような立場にいた人も多かった。しかしながら、いまや時代は変わり、それらは世の中から消えた存在といってもいいだろう。

だが、それでもオーナーにはできることがある。それはきわめて単純なことだ。悩み、行き詰った人が頼れる相談相手の存在を入居者に積極的に知らせてやればよい。

例えば、あるオーナーは、A4の紙1枚表裏・自作の「季報」を入居者ひとりひとりに配っている。そこには毎号、災害時の避難先や、粗大ゴミの回収受付先といった生活情報に並んで、さりげなく自治体の悩み相談窓口の連絡先や、厚労省が紹介している各オンライン相談窓口のQRコードなどが掲げられている。

すなわち、それらがたまたま悩んでいる入居者の目に入り相談のきっかけとなれば、それは大変素晴らしいことであるとの趣旨だ。

ひとりの命がこれによって救われ、かつ、オーナーにとってのリスクも消し去れるかもしれないとすれば、実に“効率的”で“楽”なひと手間であり行動といえるだろう。

行動は起こせば可能性が多岐に無限に広がっていく。だが、起こさなければ結果はつねにゼロだ。目の前にある行動の扉をぜひわれわれもひとつずつ開いていきたいものだ。

 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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