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サブリース賃貸住宅からグループホームへ 補助金を大盤振る舞いする自治体の事情

浅野 夏紀

2020/11/06

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イメージ/©︎paylessimages・123RF

 「人生100年」時代 その先にあるもの

少子高齢化・人口減少による持ち家の空き家化と高齢化で、アパートなど借家経営の軸足を、前期高齢者や後期高齢者、障がい者のグループホームに建て替える動きが都市部で活発になっている。

東京都など首都圏の自治体は新聞の折り込み広告などを使って、土地・不動産・金融資産を持つ地主を中心にした、介護サービスを提供するマッチングのイベントなどを頻繁に開催している。これに対して、アパート経営者や地主の関心も高い。

というのも、行政側は固定資産税や相続税の減免などの支援策を打ち出しているからだ。高齢者施設としては、これまでサービス付き高齢者住宅(サ高住)が、補助金や税負担の軽減もあって、右肩上がりで建設が進んできた。しかし、その数が増えすぎ、市場飽和による競争が激化。さらに介護報酬の切り下げで介護事業者の事業意欲が低下している。一方、グループホームは数も少なく、事業化調査や補助金獲得において、エアポケットのようになっている。

ちょっと漠然とした話だが、近ごろの日本人の「中位年齢」は推計48.4歳で、男性より数年長寿の女性は50歳に届いているとみられる。つまり、日本人の女性の半数は年齢的にも子どもを生みにくくなっている。

こうした状況では少子化を止めるのは難しく、すさまじい勢いでシルバー化が進む。アパート・マンションの賃貸住宅オーナーにとって主力客を50歳以上に設定し、先を読んだ対応をしなければ、経営は成り立たなくなる時代が来ないとも限らない。

いわば「人生100年」時代は「一億総介護」時代で、今後、高齢者施設市場では、認知症を支えるグループホームが主戦場になる可能性が高い。


すさまじい勢いでシルバー化が進む日本。先を読んだ対応をしなければ、賃貸経営が成り立たなくなる時代が来ないとも限らない/©︎paylessimages・123RF

動き始めた首都圏の高齢化対策

グループホームが少ない現状では、認知症の人が入所できるのは特別養護老人ホーム(特養)になるが、都市部で特養に入所するのは長期の順番待ちで入るのは至難だ。

しかも、入所できる要介護度を見ると、特養への入所ができる要介護3では、なかなか入れない場合もある。特養の利用者のほとんどは認知症を併発している人が多く、特養待ちをしているだけで、症状が進む人が急増している。

そこでこれに対応するため首都圏の自治体ではグループホームに力を入れている。グループホームとは、認知症高齢者のための「認知症対応型老人共同生活援助施設」で、一棟丸ごと借り上げてくれる福祉事業者がいる。

医師から認知症診断を受けた65歳以上で、かつ介護保険で要支援2から要介護5までの認定を受けていることが入所の条件だ。月間利用費は食費や光熱費、部屋代(家賃)など入所者の負担は14万~15万円程度が目安とされる。

現在、東京都住民の認知症高齢者は47万人程度とみられ、2025年には56万人にまで増えそうだ。しかも、35年にはひとり暮らしの高齢者は100万人を突破することが見込まれる。都内の認知症高齢者グループホームは20年1月時点で654カ所(定員1万1279人)だが、25年まで収容規模を2万人にする整備目標があり、この5年で500カ所程度のグループホームができると見られている。

立地は住宅地かそれに類するエリアで、延べ床面積は2ユニット(定員18人)で500㎡程度。容積率規制にもよるが、敷地は400㎡程度が必要だ。ユニットとは家事などを役割分担しながら共同生活を行う単位で1ユニットは最大9人だ。

このグループホームが賃貸住宅オーナーにとって魅力があるのは、前述の通り借り上げてくれる事業者がいるため、家賃収入が確実なことが1つ。もう1つは都の令和元年の基準などによると、既存の建物の改修でも最大2800万円前後の大きな補助金が出ることがある。これはアパートからの転用を促し、グループホームの整備を急ぎたいという自治体の思いが強い。

さらにこの補助金は2ユニットなら、オーナー型支援や認知症対応型デイサービスなどの施設併設で、重点的緊急整備地域では、最大1億円近い補助金が出る場合もある。とはいえ、現状では新型コロナの影響もあって、事業そのものは停滞している。

そんな中で都が進めている介護業者と地主らとの「認知症高齢者グループホーム整備に係るマッチング事業」は、公共社団法人の日本認知症グループ協会への業務委託事業で、賃貸住宅オーナーなどに対して、業界事情をレクチャーする説明会、グループホーム見学会、現地見学会や業務支援(補助金申請、施工業者選定支援、経営支援全般)などについて分かりやすく説明してくれる。

不動産オーナーの高齢者住宅という選択

実際にグループホームを新築するとどのようになるのだろうか。

例えば、都や区が重点的にグループホームを整備したいエリアでは、グループホームの1ユニット当たりの補助額(新築)は2500万円が3750万円に上がっている。2ユニット作ると、7500万円の補助が出る。都の例示だと、建築費を1億7000万円とすれば、補助額は44%になる。

しかも、こうした補助金5割増しの重点的緊急整備地域は思った以上に広いのだ。

具体的には港区、新宿区、文京区、台東区、江東区、品川区、渋谷区、豊島区、練馬区の全域。さらに、一部地域だけが対象にならない世田谷区。一部地域が対象になるのは墨田区、目黒区、大田区、杉並区、荒川区と23区中15区が全体、あるいは一部が緊急整備地域になる。

都のシミュレーションでは、表のような「自己資金ゼロ・借り入れ9640万円・20年返済」の例も紹介されている。


出典/東京都福祉保健局「認知症高齢者グループホーム整備費補助 資料NO.2」を基に編集部作成

このシミュレーション通りであれば、普通の民間アパート経営に比べ、断然有利だ。都の担当者は「地域の高齢者のために土地活用を通じて社会貢献を望まれるオーナーさんを東京都が支援します」といい、「福祉の実践者」になる気にさせるフレーズも忘れない。さらに行政の不動産オーナーに対する補助金の大盤振る舞いはグループホームなどだけにとどまらず、都市型軽費老人ホームといったさまざまなタイプの施設支援のメニューがある。

だが、不動産オーナーに対する補助条件がよいため、施設の種類によってはすでに地域の需要をほぼ充足し、一時的に建設を抑える「総量規制」を行っているものもある。

一方、賃貸住宅オーナーの中には30年のサブリース契約終了を待たずに福祉系に切り替える人も少なくない。

前のめりになりがちな福祉系住宅コンサルの話を丸呑みするのは危険としても、「首都圏の高齢化が生む莫大な福祉系の住宅需要」は覚えておきたいビジネスチャンスだろう。

とはいえ、東京も超高齢化が進み介護保険料の上昇から、介護サービスを提供する介護士や業者への介護報酬の給付はやや抑制的なスタンスにある。また、介護事業者の側も人手不足によって経営難や倒産する事業者もあり、福祉系住宅に乗り出す際には、その地域の需要や立地を見極め、委託する事業者の技量、経営ノウハウ、財務力などもよく調べる必要がある。

賃貸住宅が高齢者施設に囲まれる?

さて、賃貸住宅オーナーの土地を使った事業の変遷や節税策を見ていこう。

1992年に生産緑地法が施行され、都市近郊農家は宅地並み課税を逃れるため、「相続税対策に威力を発揮する」とサブリースによる賃貸住宅建設が一気に広がった。しかし、制度開始から30年を目前に賃貸住宅の建設は一巡。「賃貸事業が初めての素人さんの地主の割合は5割を切った」というのは大手サブリース業者である。しかも、サブリース業者を追い込む「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が、6月に国会を通過。サブリース会社にとってはこれまで見えにくかった「経営が丸裸にされる」という恐れがあり、この新法とコロナ禍のダブルパンチでまさに泣きっ面に蜂の状態だ。


サブリース会社は新法とコロナ禍のダブルパンチで青息吐息

レオパレス21は、経営危機が表面化、4~6月期の最終損益は142億円の赤字になる見込みで、20年6月末時点で118億円の債務超過になる見通しだ。さらに8月の賃貸物件の入居率は78%と過去最低の水準。アパート家主に支払う賃料が入居者からの家賃を上回る危機にある。

そんな中でソフトバンクグループの傘下に入った米上場不動産投資ファンドのフォートレスから資金調達を実施することを決めた。しかし、フォートレスは、今年、日本のホテル・不動産会社のユニゾが外資による買収合戦になった際に、一度は友好的な買い手であるホワイトナイト(白馬の騎士)に名乗り出たが、うまくはいっていない。支援発表後レオパレス株は急騰したが、レオパレスの先行きについては以前、不透明感は否めない。

経営危機にあるレオパレスはもとより、逆風にさらされているサブリース業界にとって、強力な補助金で攻勢をかけるグループホームを筆頭とした福祉系住宅は大きな脅威になってきている。

守勢に回るサブリース業者側からは、「介護保険制度や補助金に左右される」、「福祉用建物は転用しにくい」、「人手不足で、請け負う介護事業者が見つからない」、「ホテルと同じ対人サービスが必要で、一括借り上げにしても満室稼働させる保証はない」という苦し紛れの「警告」を発信している。

そうこうする中でも地方や郊外では、小中学校の統廃合のあと、数年経つと近くに高齢者施設ができるという現象がしばしば起こり、この流れは着実に進んでいる。今後は大都市であっても、若者・現役世代向けの賃貸住宅が、オセロゲームのように高齢者施設に囲まれていくかもしれない。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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