賃貸住宅の「原状回復」について、誤解はありませんか?(2/4ページ)
ウチコミ!タイムズ編集部
2019/08/25
説明しましょう。まず1についてです。
今回の民法改正による賃貸物件の原状回復に関する規定をひと言でいうと、それは「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を法律で明文化したものである、ということになります。同ガイドラインは、国土交通省が平成10年(1998)に取りまとめたものです。原状回復を判断する基準として、その後長く浸透してきました。そこで、このガイドラインを踏まえると、たとえばタバコのヤニによる壁紙の変色は、通常使用による損耗を超えるものであるとされています。改正民法でいう賃借人の責めに帰すべき損傷です。修繕費用を入居者さんに負担してもらうことについては原則問題ないといっていいでしょう。
次に2についてです。
たとえば「次の入居者募集のためエアコンをクリーニングする。なので、これまでそのエアコンを使用していた入居者さんに費用の負担を求める」といった場合はどうでしょうか。上記ガイドラインを踏まえると、こちらはNGです。入居者さんがエアコンを故意に汚したわけでもなく、通常に使用していた以上は、その結果に対して原状回復費用の負担を求めることはできません。ただし、「エアコン内部にタバコの臭いが付着しているので掃除が必要」といった場合は別です。さきほどの壁紙の変色と同様の判断となってくるでしょう。
3についてです。大きなポイントとなります。
ここで語られているのは、いわゆる「クリーニング特約」です。上記ガイドラインが浸透していくとともに増えた契約のかたちです。通常使用による損耗か、賃借人の責めに帰すべき損傷かなど、争いのもととなる判断自体を避けるため、あらかじめ特約を結んでおくのです。
「退去時はクリーニング代として〇万円をいただきます」などと、賃貸借契約書に初めから盛り込んでおくやり方です。入居時の初期費用として設定する場合もありますが、ケースとしては退去時の方が多いでしょう。その場合、支払いは敷金からの差し引きとなるのが普通です。入居者さん側としては、次の引っ越しを前にしての負担感が多少は薄れることでしょう。
なお、改正民法の施行後もクリーニング特約は有効と見られています。改正民法による原状回復についての規定は、強行規定ではなく任意規定であると、一般には理解されているからです。任意規定とは、たとえ法律上の規定には従わない内容となっていても、別にちゃんと約束(契約)があれば、そちらを優先させてもよいとする考え方です。従って、クリーニング特約さえ結べば、通常損耗や経年変化だけで何ら部屋を汚していない入居者さんからも、有無を言わさず約束の費用をいただいてしまえるということになるわけです。
この記事を書いた人
賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン『ウチコミ!タイムズ』では住まいに関する素朴な疑問点や問題点、賃貸経営お役立ち情報や不動産市況、業界情報などを発信。さらには土地や空間にまつわるアカデミックなコンテンツも。また、エンタメ、カルチャー、グルメ、ライフスタイル情報も紹介していきます。