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共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル(2/3ページ)

田中 裕治田中 裕治

2020/08/14

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【実例紹介】相続で取得した「共有名義」の市街化調整区域の農地を高く売却(神奈川県横浜市)

今回ご紹介するケースは、横浜市内で相続された農地です。この土地は市街化調整区域にあり、建物の建築ができないものでした。また、親族4名で共有されている農地でした。

共有名義人の方々も高齢になってきたため、このままでは今後、相続が発生すると、さらに共有者が増えてしまう。共有名義人の少ない今、なるべく高い金額で売却したいということでした。当社への相談前に大手含むいくつかの不動産会社に相談されていたとのことでしたが、農地の売買は難しいと断られたといいます。

売主様とお会いした後に物件調査を実施したところ、次のようなことがわかりました。

土地の制限については、聞いていた通り、市街化調整区域の土地で建物の建築は不可。仮に特別な許可を取得して、建築許可を受けたとしても、1)地型が三角形であること、2)近くに水道管の埋設がないこと、3)隣地に鉄道の線路があり、列車の振動を受けることなどから、建物の建築は難しいと思える土地でした。

手続き上の問題としては、農地の売却にあたっては、農地法の許可証が売買時の所有権移転登記の必須書類になります。そこで農業委員会において、農地法の許可の取得が売主及び立地基準的に可能かどうか確認を行ったところ、これについては売主及び立地基準的に農地法の許可取得は可能との見解を得ることができました。ただ、法務局備付けの公図(場所を表す図面)と現況の境界線に相違があることがわかり、これについては買主が見つかった段階で対処することにしました。

ニーズはあっても、金融機関の担保評価の低さがネック

こうした確認が終わればあとは、買主を探すだけです。もちろん、売主様が出されている条件に合う買主を探さなくてはなりません。とはいえ、これには何か特別な妙手はなく、地道に買主を探していくしかありません。

売却価格については周辺の土地相場のリサーチを行いましたが、市街化調整区域の土地の場合、大半が宅建業法適用外のことも多く、取引事例がないこともあります。そこで今回は数少ない周辺の取引事例から最も高い金額にさらに上乗せした金額、つまりは売主様のご希望金額で販売を開始することにしました。

売り出してみると、建築不可の市街化調整区域の農地でありながら、意外にも反響があり複数件の問い合わせがありました。そのほとんどは土木会社や建築会社からで「車両置場・資材置場で使いたいというものでした。とはいえ、市街化調整区域の農地は、金融機関の担保評価も低く、条件に見合う買主はなかなかいらっしゃいませんでした。実際、問い合わせをされてきた方々は、このあたりの折り合い(融資の利用)が付かず見送ることに。結果的にインターネット経由でお問い合わせいただいた買主様と購入価格や条件面で交渉。境界線の問題も売買が決まってから対応するということで合意に至りました。

次ページ ▶︎ | 売却の合意のあとの農地法の許可申請

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この記事を書いた人

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。

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