賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

ウチコミ!タイムズ

元気なうちに……はもはや夢?――住宅ローン完済の平均年齢が健康寿命を超えた

浅野 夏紀

2020/10/27

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

イメージ/©︎Zackery Blanton・123RF

住宅ローン完済の平均年齢73歳超えの衝撃

退職後も住宅ローンを抱え、年金が返済に消え、苦しむ人が増えている。

住宅ローンといえば、住宅金融支援機構の主力商品フラット35が人気だ。フラット35は固定金利で35年返済。返済金額が変わらない安心の人気商品である。

日本経済新聞の報道によると、2020年度の住宅ローン利用者が完済する平均年齢が73.1歳に達したという。65歳以降も働く人が増え、年金支給年齢の70歳引き上げも論議される中で、さもありなんという内容だ。しかし、これには重要な見落としがある。2016年に厚生労働省が発表している日本人の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳で、男性では住宅ローン完済年齢が上回ってしまったわけだ。

健康寿命とは、介添えが必要なく一人で無理なく生活できる年齢の平均のこと。つまり、男性に限っていえば、元気なうちに住宅ローンが完済できないということになるというわけだ。この傾向は今後、さらに強くなりそうだ。

2017年度の国土交通省の住宅市場動向調査では、世帯主の住宅の一次所得の平均年齢は新築の分譲戸建て住宅で37.4歳、分譲マンションは39.5歳だから、単純に35年を足せば戸建てで72.74歳、マンションで74.5歳になる。これでは65歳からもらえる年金が住宅ローンの支払いに消えてしまう。

世帯主の年齢 一次取得者

出典/平成29年度「住宅市場調査報告書」を基に編集部作成

さて、件の日本経済新聞の調査は、代表的な住宅ローン「フラット35」を提供する住宅機構の資料から、利用者の年齢や融資額・期間のデータを取得。2000年度から20年度(7月まで)の利用者(対象122万人)を調べたもの。

ちなみに筆者も自身でデータを取って調べたが、同様の結果となった。ただ、2003年の利用者については、新聞には書いてないが、実際には利用者はなんと8割近くがすでに完済していた。

ただ、完済されたかなりの部分が、当時、金利が安かった民間の市中銀行の金利変動ローンへの借り換えとみられ、住宅ローンそのものを完済したというわけではない。借り換え後の動向についてはわからないが、少なくともネットなどによくある「繰り上げ返済で住宅ローン完済の平均年数15年」というのは一概に信用できない。

実際に、日本経済新聞の調査でも、2020年度のローン完済までの平均は32.7年となっている。

また、同調査によれば、60歳時点のローン残高の平均は1300万円程度。この金額であれば、新卒で会社に入りそのまま勤め上げた人であれば、退職金で払えきれないことはないが、そうすると老後の生活費に不安が残る。

住宅ローンが老後の生活を浸食しはじめた理由

では、なぜ、70歳を超えるような住宅ローンを抱え込むようになったのか?

その答えの1つが、晩婚化ということがある。これに加えて、住宅ローンの借入額が増えていることも見逃せない。

日本銀行のマイナス金利政策で、金利変動型の住宅ローンは最優遇されると、年利1%を切ることがあり、この結果、総支払額が減る。例えば、年利3%、35年で3000万円の住宅ローンを組んだ場合の支払総額は、およそ4850万円。これが年利1%になると、およそ3557万円で、その差1293万円になる。

言い換えれば、同じ与信の人でも1300万円も多く借りられるようになるわけだ。

その証拠に住宅ローンの平均融資額は過去20年間で約1900万円から1200万円も増えて約3100万円に増えている。これは金利が安いことに目をつけて、頭金の額を減らした結果でもある。

しかしながら、それに合わせて住宅・土地価格が上がったものの、給与は増えていない。この結果、超低金利のメリットは、住宅価格の上昇によって、ローンを組む側のメリットは相殺されてしまったといえる。

そもそも日銀超金融緩和をしたが、それが消費に向かわず、企業は設備投資などに資金を使わず借金返済と内部留保になって、だぶついた金は不動産に回りやすい。金利が低くいとなれば不動産価格が上がる→借入額増えるというのは自明の理だ。

こうした諸々が要因となって、60歳時点のローン(債務)残高は2000年の700万円から1300万円と急増させた。もちろん、60歳定年そのものがなくなりつつあり、基本的に年金受給開始は65歳になっているので、65歳までは収入があれば、やりくりは可能だろう。というより、現実として還暦になってもローンも仕事もやめられない。

もちろん、住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(団信)をつければ、契約者が死亡したり、高度機能障害になったりしても保険でカバーされるので残債を払う必要はなくなる。だから、「70歳以上で住宅ローンを抱えることを過度に恐れるべきではない」という指摘もある。

加えて、現状ではフラット35の完済期限が80歳になっているが、さらに5歳程度の延長を求める声もある。さらに、長期優良住宅には最長50年融資の「フラット50」や、60歳以上を対象に、死亡時までは利息の支払いのみで死亡後に担保物件の売却などで元本を返済する「リ・バース60」も登場している。

まさに「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」である。

研究が進む、老後住宅ローンに変わる新商品

さらには、ローンの支払年数をあらかじめ、差し引き、ローン負担を軽くする「残価設定住宅ローン」はまだこの世にはないが、最近の新聞報道によると、官民の共同開発がすぐ始まるという。

とはいえ、住宅購入時の借り入れ金額と一定期間の住宅価値の差額のみを返済する「残価設定型」ローンだと、ローンを払い終わった時点で、残りを全額支払う、あるいは新たに残価を支払うローンを組まなくては自分のものにはならないため、高齢になって住む家がなくなるということにもなりかねない。

サラリーマンであれば退職金で一括支払いも可能かもしれないが、それではいまある普通の住宅ローンとあまり変わりない。もっといえば、自分のものならなければ、「賃貸住宅と同じではないか?」ということになる。

自動車ローンでの残価設定ローンは普及しているが、車の場合は主に2回の車検(5年・60回払い)というのが主流で、常に新車を売りたいというメーカーの思惑から出てきたものだ。しかし、簡単に買い換えができる車と、住宅を同じような金融商品に仕立て上げられるのかは疑問だ。

報道によると21年度にも新商品の住宅ローンが開発されるというので、マンションが売れないなか、住宅業界がこの特ダネに「踊らされて」いる傾向が見て取れる。

だが、霞が関の関係筋の話によると、21年度から2年の単なる「モデル事業」にすぎず、「残価設定ローン」の課題を上げるだけの報告書の作成に終わる可能性がある。新型住宅ローンの早期開発は不発の確率が少なくないようだ。

いずれにしても高齢になっても消えない住宅ローン問題の解決策は見つからず、今後、老後住宅ローン破産問題がクローズアップされることは間違いない。

■浅野夏紀氏の記事一覧はコチラ

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

ページのトップへ

ウチコミ!