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新築マンション1億円時代に突入か――コロナ後の東京23区 令和型ファミリーのかたち

浅野 夏紀

2020/08/06

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新たな郊外戦略に乗り出している大和ハウス工業(左)と長谷工コーポレーション(右) 写真/編集部

気がつけば1㎡単価がバブル期超えに

不動産経済研究所の調べで、今年上半期(1~6月)の首都圏のマンション供給は44.2%減の7,497戸とコロナ禍で大幅減、上半期としては初めて1万戸を下回った。一方、平均価格は8.7%上昇の6,668万円で8年連続の上昇、上半期の最高値を更新した。また、1㎡あたりの単価は103万円と、上期として1991年(102万円)を超えて最高値になった。年間供給予測は約3万2000戸で、1973年の調査開始以降、過去最少となる模様だ。都区部(23区)では一戸平均8,190万円(平米単価132.4万円)となった。

マンションが「高値」(高嶺)の花になってしまったわけだが、これは長期間続く超低金利政策の影響で、地価の二極化と勤労世代の世帯所得の二極化が同時進行した結果でもある。

もちろん、日銀の超金融緩和(マイナス金利政策)などで、金利負担が軽くなり、カネ余りの状況の中、「所得2倍」の共稼ぎの夫婦には、超高額物件でも住宅ローンが借りやすくなっている。日本は、預金者から集めたお金を銀行が貸し出すという間接金融が強いが、その担保はほとんどが不動産であり、溢れたマネーは不動産に流れやすい。

さて、「郊外で子育てして、都心で働く」という昭和型、いや高度成長時代型のファミリー住宅のモデルが、今や「夫婦ともに都心で働き、都心に住む」というライフスタイルに変化を遂げていることを如実に示している。コロナ渦で、都心の「密」を避けて郊外に住宅が戻っていくトレンドは、今のところまだ定かではない。

この「夫婦ともに都心で働き、都心に住む」という流れによって、都心に保育所、託児所が次々と作られ、東京都中央区の人口が急増、さらに出生率も東京でも最も高くなるという現象も引き起こされている。

日本不動産研究所の調べでは、近年は共稼ぎ率の高いエリアの地価の上昇率が高く、共稼ぎ率の低いエリアの地価の下落率が高いといった調査結果も出ている。共稼ぎ正社員を「パワーカップル」とも呼ぶが、所得が他の世帯の2倍なら都心のマンションも購入可能で、そうした需要が高ければ、必然的に都心の住宅価格が上昇する。

昨年までのインバウンド旋風で、都心のマンション立地適地は、ホテル事業に高値で買われてきた。都市の物件は、中古で売っても新築時より高い値段で売れる事例が増えれば、「利殖できる住宅商品」(マンション財テク)としても、人気はさらに高まる。マンション原価のうち、減価しない土地部分の割合が高い物件も人気となる。

マンションの場合ですら、「駅徒歩10分圏内」に立地していないと中古価値が落ちるという話が、住宅の一次取得者にも浸透している。この結果、億ション以外のファミリーマンションは、郊外の駅前にシフトしている――というのが今の住宅市場の構造変化である。

都心の新築マンション相場が1億円になった理由

都心では、世帯年収2000万円〜4000万円の共稼ぎパワーカップル(30代〜40代)が高級マンションを買い求め、郊外は都心の半額か半額以下のマンションや戸建てしか売れない。ついに「住宅価格の分極化」の時代へ突入したといえる。これは、これまで日本人が持っていた「日本の一億総中流説」が「もはや幻想の部分が多くなった」という話にも通じる。

では、なぜここまで都心のマンション価格が上がったのか。そのカラクリは、何も都心の地価高騰だけが理由ではない。地価がボトムにあった01〜04年ごろによく売れた 5000万円〜6000万円クラスの都心のマンションは建築費の高騰もあって、「億ション」に近い金額帯となってしまったのだ。実際、地価高騰と建築費高騰が進んだ結果、都心のマンションの価格に占める建物建設費の比率は40〜50%と、土地代とほぼ等価である場合が少なくない。

ところが、地価が安い郊外の場合、土地代は、1戸あたりの販売原価の3割台までは何とか落とせるため都心より1000万円〜2000万円も安く売り出せる。郊外では土地代が安い分だけ、都心より建築費の割合は増えるが、グレードや仕様を抑え込んでおり、建築費そのものが上がるわけではない。

とはいえ、郊外においても、鉄筋コンクリート建てのマンション(一戸当たりの価格)のほうが、木造の戸建てより高くなることが一般的だ。建物は年とともに価値が減価するから、中古の郊外物件は安くなりやすい。ほとんどの郊外は人口が減っているので、さらに市況は悪化する。

攻勢をかける長谷工と大和ハウスの戦略

さて、戸建て問題だ。積水ハウスやミサワホームなど高級感を売り物にするプレハブメーカーとは違い、パワービルダーと呼ばれる業者は、狭小地にも2階建てを建ててしまう。立地や広さにもよるが、土地付きで2000万円台〜4000万円台で十分に販売が可能だ。

こうしたパワービルダーと呼ばれる30坪程度からの戸建て格安専業業者は、マンション購入層を「郊外はやっぱり車庫つきの一戸建てが一番です」と口説いている。そして住宅市場を都心から郊外へと 「再回帰」している代表格といえばまず、マンション専業のゼネコンである長谷工コーポレーションと大和ハウス工業である。

かつてはマンションと戸建ての業界には明確な住み分けがあったが、今はこれも崩れてしまいプレハブの戸建て住宅が強かった大和ハウスが盛んにマンション販売に乗り出している。将来的な連結売上高目標に10兆円をかかげる大和ハウスは元々、積水ハウスに次ぐ業界第 2位のプレハブ住宅メーカーだった。だが、今や売上高は積水の約2倍。ゼネコンのフジタなどを買収し、マンション開発、都市開発、ショッピングセンターから物流施設まで手掛ける。もちろん、地主相手のマンション建設や一括借り上げ(サブリース)、不動産仲介業などもお手のものだ。その一方で、高価格のタワマンに押され、ボリュームゾーン(かつての売れ筋)のマンションの着工が頭打ちになり、苦戦を強いられている面もある。

不動産業界大手の三井不動産、三菱地所もグループ全体で億ションなどマンションや高級戸建てを手掛けるが、価格がとても高いので、その多くは富裕層やパワーカップル以外には手が出ない物件ばかりだろう。

億ション、タワーマンションを前面に押し出す財閥系に対して、新たな郊外戦略に乗り出している長谷工や大和ハウス。コロナ後の不動産デベの勢力地図がどうなるか注目したい。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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