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賃貸人の修繕義務

森田雅也森田雅也

2016/08/15

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賃貸人は、賃貸物件に不具合が生じて修理が必要となった場合に、これを修繕する義務を負います(民法606条1項)。もちろん、賃貸人自身が修理をする必要があるわけではなく、業者に頼んで修理してもらうのでも構いませんが、その場合の修理代は賃貸人が支払うことになります。さらに、賃貸人が修理に応じず、賃借人が代わりにその修理を行った場合には、賃借人はこれにかかった費用を賃貸人に請求することができるとされており(民法608条1項)、賃貸人はその費用を弁償しなければなりません。

賃貸人が修繕しなければならない範囲としては、その不具合が賃貸人の原因で生じたものだけでなく、不可抗力により生じたものも含まれるとされています。また裁判例の中には賃借人の原因で生じた不具合であっても賃貸人の修繕義務を認めた判例もあるのです(東京地裁平成7年3月16日判決)。なぜこのように広い範囲で賃貸人の義務が認められるのかというと、賃貸人は物件使用の対価として、賃借人から賃料を受け取っている以上、使用に必要な修繕はその賃料でまかなうべきだという価値判断が働いているためです。このような考え方をもとにすれば、原則として賃貸人は使用に必要な修繕については、修繕を拒むことはできないといえます。

もっとも、低額の賃料に対して、あまりに過大な費用が掛かる場合にまで、修理費用義務を負わせるというのは、賃貸人に酷であるといえます。賃貸人は費用が過大なことを理由にして修繕を拒むことができないのでしょうか。

この点に関して、裁判例には、賃料額に比較して不相当に過大な費用を要する修繕を賃貸人の義務とすることは経済的公平に反すると述べ、賃料額に対して採算の取れないような費用の支出を要する場合には賃貸人は修繕義務を負わないとしたものがあります(名古屋高裁平成15年9月24日判決)。この事案では、月額5万円程度の賃料で、賃借人の側から380万円程度かかる修繕工事が求められており、結局26万円程度の範囲での修繕義務のみが認められました。

このように、賃料に対してあまりに費用が過大な時には、賃貸人が修繕を拒むことも可能であると言えるでしょう。もっとも、具体的に問題となった裁判例は、適切な賃料がいくらであるか、実際に修理が必要かどうか、修理に必要な額はいくらなのかなど、様々な事情が考慮された結果であると考えられますので、お困りの場合には弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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