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今年も水害の年 火災保険料には「水害格差」が間もなく導入か 不動産市場への影響は?(2/3ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2022/08/26

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進んでいる「水災補償離れ」

その傾向とは、「水災補償離れ」ともいうべきものだ。金融庁懇談会の提出資料などから数字を拾ってみよう。

「火災保険 水災補償付帯率」(損害保険料率算出機構によるデータ) 
2013年度 76.9%
2014年度 75.2%
2015年度 73.4%
2016年度 71.9%
2017年度 70.5%
2018年度 69.1%
2019年度 67.8%
2020年度 66.6%

このとおり、水害が尻上がりで猛威をふるった印象の近年にあって、火災保険における水災補償の付帯率は、実は下がり続けている。「水災は要らない」という人が年々増えているのだ。 

その理由のひとつとして、金融庁の懇談会は、この間に人々のナレッジのレベルが上がった旨を挙げている。水害ハザードマップなどさまざまな情報・知見の充実が、現にリスクに晒されている人に対しては注意を促した反面、そうでない人にはある意味での安心をもたらしたといえるだろう。

ハザードマップを見て、「わが家の立地ならば水害は大丈夫」「しかもウチはマンションの上の階なので」などと考えた人が、余計な(?)コストとなる水災補償を外すことは、ごくあたりまえの判断となるわけだ。

ただし、このことは当然ながら水災を補償するために用意されるファンドが目減りすることを意味している。前述の「赤字常態化」と相まって、今後もいつ、さらなる巨大水害に対処することになるかも知れない火災保険にとっては、肝心の資金的土台が削られていく危うい状況が、目下進んでいるということだ。

迫られる微妙な舵取り・匙加減

以上をまとめるとこうなるだろう。

・近年、自然災害が多発、激甚化するなか、社会の重要インフラともいえる火災保険の収支が圧迫されている。そのため保険料率の引き上げが続いている 

・上記に対して影響の大きい水災補償においては、リスクの高い地域ではますますリスクが高まりそうな一方、低い地域では逆に水災補償離れが進んでいる

・そこで国や損保業界としては、リスクに応じた保険料率の細分化を水災補償に導入することで、高リスク=高負担、低リスク=低負担のかたちをつくりたい。すなわち格差による公平をつくり出し、火災保険の土台を守りたい

――要は、自動車保険における運転者年齢による保険料格差のごとく、水災補償にも料率区分を設けたい、そのことでいまの危機を乗り切るステップを得たいということだが、では、そもそもなぜこれまで水災補償には料率区分が無かったのだろうか?(同じ火災保険の風災、雪災には地域による区分がすでにある) 

その理由として、損害保険料率算出機構の資料などには、過去には細かな地域単位での水災リスクを測るデータが不十分だったことなどが挙げられている。だが、その点については各種ハザードマップの充実など、近年のテクノロジーの後押しも受けた環境変化が、いわゆるブレイクスルーをもたらしたものと見ていいだろう。

とはいえ、今後の舵取りにはかなり微妙なものが迫られそうだ。すなわち、格差による公平は格差による苦境も生み出しやすい。

たとえば、さきほどの水災補償離れを抑制するため、低リスク地域の保険料を下げる傍ら、うっかり高リスク地域の保険料を上げ過ぎると、今度はそちらの契約者が保険加入を維持できなくなる。火災保険の社会インフラとしての機能が危うくなる。 

すると、当然ながら保険料の補助云々といった「公助」の話が出てくることになりそうだが、対象は個人の家=私有財産だ。もっと大きな公平が損なわれるおそれもある。

よって今後このテーマは、おそらく地方行政をも巻き込んでの難しい課題を生み出すものとなっていくだろう。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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