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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

国を守るとは、国民を飢え死にさせないこと! 今こそ農業大国日本を創る(2/3ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2022/05/18

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【最近手掛けている仕事の話】

私事、相続人不存在の農家住宅とその周辺農地の売却処分を相続財産管理人から依頼された。これまであまり縁がなかった農地の現状を、肌身で感じることができ、複雑に絡んだ事務処理もさることながら、この小さな仕事の中で、日本の農業の大切さを考えるきっかけを与えてもらった。

その案件というのは、市街化調整区域内の農地と農家住宅。数年間放置された空き家と山積みの家財や動産類、税金滞納と車検切れの車両。地目〈田〉の農地には、倉庫やガレージ、建築現場の飯場のような未登記の建築物が残されており、既に朽廃寸前の代物。

——さて、何から手を付けようか。

所有者は、住宅ローンやら農協からの借り入れやら、かなりの債務を残していたから、先ずは金融機関との折衝から始める。売却査定金額から残債務の返済可能額を想定し、抵当権の抹消同意を得ておかなければ販売活動にも入れないからだ。

先順位抵当権者と任意売却の手続きに関する書類を交わし、後順位抵当権者には、残債務に遠く及ばない金額での抹消同意を得て、ようやく活動開始。

この案件、ややこしいのが農家住宅の敷地と建物は旧住宅金融公庫が、農地部分には農協がそれぞれ1番抵当権者として抵当権を設定しているから、公庫の側は農家住宅部分の売却だけの手続きだが、農協さんは住宅部分は後順位でも、農地部分は1番抵当権者で、農地部分の売却が進まないと債権回収もままならない。

しかし、この土地の区画が不整形で、農家住宅と農地はセットでないと売れないだろうときている。更に、調整区域内農地の売却には農地法の許可が必要で、通常なら4条申請(相続財産管理人が申請者)を行い、許可後に地目変更、売却となるが、相続財産管理人には保存行為や管理以外の権限はなく、何をするにも裁判所の許可が必要となる。従って、この案件をスムーズに処理するためには、そう、買主を先に見つけてから一連の手続きを順次行うことが求められるのだ。

【悪戦苦闘の果てに】

幸いにも早い段階で買い手が見つかった。査定を厳しく精査したことで、抵当権者との折衝は手間取ったが、案件の複雑さから、このままだと競売でも落札が難しいと予想されることから、何とか納得いただき、購入希望者には一連の事情をご理解いただいて、所有権移転まで協力いただきながら進めて行けることは、願ったり叶ったりだ。

早速、手続きに入るのだが、ここからが本番。農地ならではのハードル、農地転用が拙者の眼前に立ちはだかる。

農地法4条は、所有者自らが農地を農地以外の用途に使うため行う手続きで、同法5条では、転用を前提とした権利の移転または設定の許可を得る手続きだ。いずれの場合も近隣調整や転用後の計画書とそれに基づいた資金計画の根拠など、多くの疎明資料が必要であり、作業は煩雑だ。

また、この農地には未登記の建築物が複数棟建てられており、そもそも農地法に違反している可能性があるうえ、建築物には都市計画法上の開発許可と建築基準法上の確認申請手続きにも違反している可能性も否めず、訪ねた農業委員会事務局では、先ずそれらの調査を指導され、役所特有の“部署間のたらいまわし”にもめげずに何度も通い、時には訪問先を間違えるほど頭が混乱。

ようやく転用の目途が見えてきたとき、ダメ元承知で奥の手“非農地証明申請”を願い出てみた。

この証明は、農地なのに農地ではないことを証明してくれというものだから、農地法の趣旨に反して行う農業委員会の裁量権の範疇であり、原則は転用許可申請であって、現状が農地として利用されていないからといって、そう簡単に出していただける証明ではない。

しかしながら、拙者の願いが通じたのか、本案件の特殊性を理解いただき、当初否定的だった農業委員会事務局も、非農地証明発行手続きで進めてくれることとなったのだ。

このコラムが読者諸氏に届く頃には、晴れて農地地目が“宅地”に変わり、新しい所有者の元に引き取られ、再び活用される土地となっているかも知れないが、反面、大切な“田んぼ”がこの国から消失するということに外ならない。


イメージ/©︎norikazu・123RF

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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