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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

"メンタルの強さ"は人を幸せにするのか?(2/3ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2022/03/17

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大舞台に弱い…克服の鍵は自己分析

ソチオリンピック前までに高梨選手が国際大会(W杯)挙げた戦績は、日本男女を通じて歴代最多勝利記録保持者で、世界でもシーズン最多勝利(2013/2014は13戦10勝、通算19勝)。平昌オリンピック直前にはW杯通算53勝(世界歴代最多勝利に並ぶ)、そして、今回の北京までには通算61勝で世界記録は更新中という、並外れた次元のアスリートだということは疑う余地もない。

その高梨選手にオリンピアの女神ニーケ(ギリシャ神話・オリュンポス十二神の一人で勝利の女神)は一度も微笑むことはなかったのは何故だろう。それは、やはりプレッシャー(≒ストレス)が最大の原因であると思う。

何のプレッシャーか?

数多くの国際大会においても、出場する選手は皆、胸に「日の丸」を縫い付けて競技する。日の丸を背負う大会での個々の心情は同じだと言う。ならば何が違うのか? オリンピックとW杯のどこに違いがあるのか。 

それは、見る側、つまり我々国民の期待と注目度の差であろう。それほどオリンピック大会は日本人にとって特別のものであると思うからだ。

それまでの個々の実力からすれば、表彰台に上ることは約束されたも同然のスター選手が、ここぞという時に力を出せない現実を何度となく見せられてきた。その時、我々は打ちひしがれる選手の姿に心を砕き、同情や慰め、或いは非難や中傷を自由気ままに論評し、酒の肴に夜毎楽しむのが平和ボケ日本国の姿でもある。

しかし、選手本人の苦悩や重圧に触れることは関係者以外感じる術は無く、国家の威信を懸けて競技場へ向かう姿は、先の大戦まで多くの兵士たちが戦場へ送り出される——それと完全に重なって、悲壮な感覚すら漂わせている。

“どんな困難な状況にも負けずに障害を乗り越えようとする人”と聞けば、さぞやポジティブシンキングの持ち主であろうとか、持ち前の明るい性格や我慢強さという「個人の特性」に大きく左右されると考えられがちである。

無論全くの間違いだとは言わないが、心理学の分野では、個人の持って生まれた性格という分類の仕方は行わず、そのポジティブシンキングや我慢強さはどのような過程で備わるのか、という「過程」に焦点を当てて分析し、検証する。

“人の性格は一生涯変わらない”というのが心理学上の仮説であったが、1968年にウォルター・ミッシェル(スタンフォード大学心理学者)は、著書『Personality&Assessment』において、「人の性格は生涯変わらない特性として捉えられ、状況に応じて変化しない一貫性を有するものである」という、これまでの仮説を根底から見直さなければならないと主張した。

これによって「性格を重視するパーソナリティ心理学」と、「状況を重視する社会心理学」との議論が起こり、性格と状況の「相互作用」が行動を最も適切に説明するものであると導き出された。

この「性格か、状況か」という議論に対する答えとして、マーク・スナイダ―(ミネソタ大学社会人類学研究所の社会科学者)が開発したのが、セルフモニタリングスコア(SMS:初期18項目、その後25項目に整理される)で、スコアが高い人は「状況」に、低い人は「性格」に大きく影響されることが実証されている。このSMSは、各項目の問いに〇×で答え、予め用意されている〇×に自分の答えを重ね合わせて符合する数によってスコアの高低を見るというものだ。18項目テストなら、最高値が18で、最低値は0であり、中間値が9ということだから、9より上の結果が出ればスコアが高い、下なら低いとなるが、高低は性格の善し悪しの判断基準ではなく、「状況判断型」か「性格型」かの偏りを見る尺度である(興味ある方は検索すればすぐに見つかりますので、どうぞお試しを)。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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