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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#16 新型コロナウイルスで始まる不動産業界の構造変革(1/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2020/06/19

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施策だけで問題解決できない新型コロナ

コロナ禍による緊急事態宣言が延長(5月25日に解除)され、営業自粛を余儀なくされる飲食店や物販店などが家賃負担に耐え切れず、倒産や廃業に追い込まれるところが出始めた。こうした動きを防ごうと国は家賃補助に乗り出している。具体的には特別家賃支援給付金を創設し、単月の売上が前年同月比で50%以上落ち込んだなどの条件に該当する中堅中小企業に対しては家賃の3分の2、上限50万円を負担する、個人事業主に対しては同25万円を上限に負担するとした案で、自民党、公明党が発表している。この案では対象を飲食などに限定せず全業種とするなど相当思い切った内容になっている。

給付金によって一息つけるのはテナントである飲食店だけだと思われがちだが、本当に安心しているのは家賃をもらっている大家である。街の商店街などで自身の不動産を店舗などにしてテナントに貸し出している大家は多い。大家というと世間では賃料だけもらっていて裕福な層だと思われがちだが、土地や建物には固定資産税などの税金がかかるし、建物自体のメンテナンスなどの管理コストが思いのほかかかるものである。この給付金はテナントのためというよりも大家のためとも解釈できる理由がここにある。

だが、この施策だけで問題が解決するわけでは当然ない。お店というと一般の人は街中にある居酒屋や定食屋のようなところをイメージしやすいが、今回のコロナ禍では個人事業主や中堅中小企業だけでなく大手企業までを含めて全業種に大きな影響が出ているからだ。店舗が1カ所だけならば最大50万円の補助は干天の慈雨となろうが、複数の店舗を出しているようなお店や、都心部でオフィスを100坪、200坪借りているような中小企業にとってはこの補助金は雀の涙程度の効果しかないというのが実情だろう。

すでに大規模なショッピングモールやアウトレットなどではテナント店舗とこれを運営する運営会社、事業主である不動産会社などとの間で激しい賃料交渉が勃発している。商業施設のテナントは大家との間で、最低保証賃料に売上歩合を上乗せした賃料体系を採用することが一般的だが、施設が閉鎖されているので当然売上歩合はない。だが店を開いていないにもかかわらず最低保証賃料という固定賃料分を支払わなければならない。大家側からみれば、施設としての維持管理コストは絶対必要なのでこれだけは死守したい。でも背に腹かえられないテナント側はこの最低保証賃料の支払い猶予や減額、あるいは賃料そのものの免除を求めるに至っている。事態は深刻なのだ。

国内の観光客もビジネス客も「全滅」

また今回のコロナ禍でほぼ全滅状態にあるのがホテルなどの宿泊施設だ。ホテルは自らが建物を所有して運営しているケースはむしろ稀で、多くが建物を賃借している。150室程度の平均的なビジネスホテルであれば、1000坪程度の床面積を必要とする。賃借料は場所によっても異なるが都内であれば坪当たり1万2000円程度はする。家賃負担は月額で1200万円にもなる。コロナ禍での都内のホテル稼働率は軒並み10%を切る水準に落ち込んでいる。宿泊平均単価も現在では大幅に下がって都内でも1泊5000円から6000円程度。どんなに計算しても月の売り上げは300万円にも届かない。この時点ですでに月額900万円の赤字。これに加えて従業員の人件費や水道光熱費などの管理コストを勘案すると、多少の現金を持っている会社であっても1カ月で倒産してもおかしくないレベルになってしまうのだ。

とりわけ東京五輪開催を見込んで都内に多数建設されてきた新築ホテルにとって状況はさらに厳しい。この春は五輪開催になんとか間に合わせたホテルなどの建物竣工ラッシュを迎えている。おそらくほとんどのホテルではすでに大家である不動産会社と建物賃貸借契約が締結済みで、建物竣工と同時に賃料の支払いが発生するはずだ。

五輪前、都内はホテル建設を目論んで多くの不動産会社がしのぎを削った。高騰する都心の土地をマンション業者などとの競争に打ち勝って仕込み、上昇が止まらない建設費をなんとか呑み込んでこの春開業を迎える、それもこれも20年夏に五輪が「開催される」ことを前提にしたからの頑張りだった。

ところが肝心の五輪が開催延期になっただけではなく、インバウンド客が来なくなり、経済活動のすべてが止まり、国内の観光客もビジネス客もすべてが「全滅」という大惨事が起こったのだ。ビジネスの根幹が崩れてしまったホテルにとって大家に払う家賃は存在しないのである。

このように家賃補助は一見すると、国や政府のやっている感を演出するのには一役買っているように見えるが、日本経済がそんな程度ではすまされない大変な状況に陥っていることは、この不動産の状況を俯瞰しただけでも明らかなのである。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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