【家族信託活用実例】家族信託で遺したい人に財産を託す――子どもたち平等ではなく、面倒をみてくれる娘家族を安心させたい(1/2ページ)
谷口 亨
2019/09/28
イメージ/©︎123RF
財産は収益用アパートのみ 3人の子どもたちへどう分ける
相続のご相談を受けていると「子どもの相続額に差をつけたい」ということで悩んでいらっしゃる方のお話をうかがうことがしばしばあります。例えば、「世話をしてくれた子どもに多めに遺産を相続させたい」「生活が苦しい子どもには多めに遺産を渡したい」といった内容です。
今回のご相談者は、主な財産が収益用アパートしかなく3人の子どもたちへどのように分けたらいいのか。特に離婚した娘には、シングルマザーの孫とひ孫がいるので心配でたまらず、遺言ではなく今すぐにでもどうにかしたいという強い思いを持っていらっしゃる方でした。
そこでそれにお応えできるプランとして、生前贈与と家族信託を組み合わせたものをご提案しました。
相談者=原 道子さん(仮名)90歳。
配偶者は亡くなっており、相続人は長女、長男、次男の3人こども。
〈相談内容〉
原:3年前に亡くなった夫名義の収益用アパートを私が引き継いでいます。でも、90歳になり、アパート経営が面倒になったので、手を引き、3人の子どもたちが揉めないように、遺産を分けてすっきりしたいんです。
谷口:ご主人が事業として行ってきたアパート経営ですね。
原:はい。でも私には経営をするという意識もなくて、ただ受け継いで入居者の募集や管理は長年のおつきあいのある不動産屋さんにお願いしているというだけです。
谷口:ご主人が亡くなったときの相続では、アパートをお子さんたちとの共有財産にはしていないのですね。
原:私自身が、アパートの最上階を自宅にしていて、家賃収入を生活費に充てていましたから、共有にすると面倒な手続きが多くなると思って、とりあえず私の名義にしました。子どもたちも、それでいいと。ただいずれアパートを売却するときは、子どもたちにきちんと売却のお金を分けるということになっています。
原さんが所有される物件は、3階建てのもので、1階は店舗。2、3階はワンルームと2DKの間取りの9室のというものでした。これまで1階には中華料理店が営業をしていたが、アパートの住人とトラブルとなって店を閉めて出て行ってしまったといいます。
谷口:満室になっていますか。
原:それがもう建物も古いし、空室が1部屋。1階店舗も空いています。それと私の娘が3年前に離婚して、孫とひ孫3人で戻ってきてアパートの一室で暮らしています。実は長男も仕事がうまくいっていなくて、最近、夫婦でアパートに越してきました。どちらからも家賃はとっていません。
谷口:ほかにお子さんはいらっしゃいますか?
原:次男もいます。次男は独身ですが、家を出て独立してやっています。
谷口:そうですか。原さんが一番気にかけているのは誰ですか。
原:やはり娘と孫、ひ孫です。私としては、何かと面倒を見てくれている娘家族と暮らしたい。娘家族にはこれからも住まいの不安なく暮らして欲しいという気持ちがあります。
谷口:死んでからではなく、今、どうにかしたいということですね。
原:実は主人は亡くなるまで10年近く寝込んでいました。成年後見制度を使って、私が後見人をしていました。生活費以外にアパートの修繕や何やらお金を使いたいと思っても、時間がかかり、ときにはお金をおろすことができないと言われたこともあって、金銭面で大変な思いをしました。このまま、もし私が認知症などで判断能力がなくなったらどうしよう、子どもたちにも迷惑をかけると思ったんです。
谷口:そうですか。では対策を取らないといけませんね。
この記事を書いた人
弁護士
一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。