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造作買取請求権

建物内部を構成する「造作」
建物の内部を構成する部材や設備のことを「造作(ぞうさく)」と言います。部材であれば床、建具、畳、鴨居等、設備であれば水道・空調設備等が造作に当たります。「柱、梁などの主要構造物以外の仕上げのこと」と説明されることもあります。後者の場合は大工仕事に焦点を置いた定義のようで、かつて仕上げ工事は大工の腕の見せ所だったとか。しかし近年では既製品を取り付けるだけで済む造作が増え、あまり技量の差が目立たなくなっているそうです。借地借家法の最高裁判決では、造作は「建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ、建物の使用・収益に客観的便益を付与するもの」とされています。
造作は基本的に作り付けたら容易に取り外せないもの。もし借家人が造作を付加した場合には、原則として賃貸借契約の終了時にその造作を収去しなければならないと民法で定められています。しかし、この規定には例外があります。それが「造作買取請求権」です。
価値あるものを時価で買い取らせる規定
造作買取請求権とは、賃貸借契約が終了したときに借家人が建物に付け加えた造作を家主に時価で買い取らせることができる権利のことです。「えっ、そんなことできるの?」と思う人も多いでしょう。実際、借りた部屋を改造することを原則として認めていない賃貸物件は多いと思います。しかし、法律上は2つの権利が認められています。
  • 有益費償還請求権
  • 造作買取請求権
有益費償還請求権とは、借家人が建物に有益な支出を行った場合は賃貸人が償還しなければならないという取り決めです(民法608条)。例えば借家人が借家に公共下水道を設置したら、その人が退去した後も借家は恩恵を受けます。ならば費用は賃貸人が負担すべきだ、というものです。ただし、有益費償還請求権では改良工事等の結果が建物の構成部分となっていることが条件。取り外しが容易ではないものであっても動産については請求権は認められません。
一方、造作買取請求権で「造作」と認められるものには次のようなものがあります。
  • 店舗の釣り棚
  • 雨戸
  • 木造の間仕切り
  • 広告用表示用板
  • 据え付け戸棚
  • ダクト一式
造作も厳密に言えば動産なのですが、この場合は容易に取り外しができないもので、しかも建物の使用に客観的便益を与えるもののこと。建物の客観的な使用価値を増大させる場合には造作買取請求権が認められるのです(個人的趣味や特殊な用法のために付加されたものでは認められません)。借家人が価値あるものを設置した場合、それを賃貸人が無償で譲り受けてしまうと、賃貸人が新しい借家人に売りつけることも考えられます。借家人が投下した資本を回収できるようにし、賃貸人が不当な利益を得られないようにするために設けられた規定です。
ただしこの権利は任意規定であり、造作の買取義務を負わないように特約を結ぶこともできます。また、原則として借家人が賃貸人の同意を得て設置した造作にしか造作買取請求権は認められません。勝手に設置した設備等を無制限に売りつけることはできない、ということです。