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原状回復

原状回復とは、賃貸借契約をした物件で契約を終了したのち、借主が物件を当初の状態に回復して明け渡すことをいいます。原状回復義務として民法に規定されています。

原状回復ガイドライン
原状回復の状態と原状回復の費用については、借主と貸主との間に認識の相違があり、トラブルとなるケースも見られます。そこで、平成10年に原状回復におけるガイドラインが公表され、さらに平成23年には原状回復のための手順を明確化するなど、ガイドラインの具体化が進んでいます。
原状回復の定義
建物も室内も毎日の生活や経年によって、自然に劣化していく部分があります。そこで、原状回復のガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の私用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」としています。
経年劣化と通常損耗
壁紙や畳、フローリング、カーペットなどは、時間の経過と共に劣化し、その価値も減少します。これを経年劣化といい、価値の減少分を通常損耗といいます。そのため、原状回復の費用に、これら価値の減少分まで借主が負担する必要はありません。
経年劣化の具体例
テレビや冷蔵庫などを置いていた部分の壁紙の黒ずみ、畳やフローリング、壁紙の通常の汚れ、畳やじゅうたんについた家具の設置跡などは、原状回復費用として借主が負担する必要はありません。しかし、壁紙や天井についたタバコのヤニは原状回復費用として借主が負担する場合が多くあります。
ちなみに、借主が退去した後にハウスクリーニングが行われます。この費用については、貸主が負担するのか借主が負担するのか、物件によって異なります。契約書に明確な記載がない場合は事前に確認しておいた方がトラブルの回避につながります。
原状回復費用
賃貸借契約の場合、敷金を原状回復費用にあてます。敷金から原状回復費用などを差し引いて残った敷金は借主に変換されます。しかし、経年劣化による損耗や毀損ではない場合、原状回復に敷金以上の費用がかかることもあります。
敷金
敷金は、借主の退去時に修理が必要な箇所があった場合の修理費用、あるいは家賃を滞納した場合などの保証金として、貸主に事前に預ける費用です。敷金の額は物件によって違いますが、家賃の1カ月分、あるいは2カ月分としているところが多いようです。なかには「敷金ゼロ」という物件もあります。「敷金ゼロ」という物件を退去する際は、別途原状回復費用を請求される場合もあります。

「原状回復」でトラブルを避けるには

「原状回復」は言葉通りの意味ではない
「賃貸借契約が終了したのち、借主が物件を当初の状態に回復して明け渡すことを原状回復と言う」と解説されることがあります。要するに「借りた物を返す時は、貸した時と同じ状態にして返してくださいね」ということですが、実際には壁紙・畳・フローリング・カーペットなどは経年劣化するので(通常損耗)、借主が負担しなくて良いことになっています。一方、タバコのヤニに関しては借主に原状回復費用を求めることもありますし、退去後のハウスクリーニングの費用を貸主・借主のどちらが負担するのかは、物件によって異なります。トラブルを避けるためには、原理原則の部分と個別の物件によって異なる部分を押さえておく必要があります。
原状回復の原理原則
原状回復の定義は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の私用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とガイドラインで決められています。ちょっと混乱しますが、原状回復とは減少した建物価値の一部を回復することであって、その意味では「借りた当時の状態に戻す必要はない」ということでもあるのです。先にも述べましたが、「クロスが日に焼けた」などの通常損耗の修繕費用は毎月の家賃に含まれていると考えられており、退去時に請求されるものではありません。
とは言え、「通常」という考え方はあまりにざっくりしているので、トラブルの原因にもなります。このためガイドラインでは具体例を挙げて負担の分担を明らかにしています。例えば気づいたらできていた壁紙の染みや家具を置いた場所に自然にできた床のへこみなどは、貸主が負担すべきもの。しかし、飲み物をこぼしてできたシミやペットや落書きによる汚れを放置したり、清掃を怠ったために発生した風呂等のカビなどは、借主の負担になります。つまり、借主の不注意や放置(善管注意義務違反)などによって汚れたり傷んだりした場合は借主の負担になるということです。このため借主が引っ越しする際は、通常の清掃を行っておいた方が余計な負担が抑えられると言われています。
独自のルールは貸主・借主共に確認を
以上のような原理原則を貸主・借主の双方が理解していれば、トラブルを未然に防げる可能性が高まります。また、借主の側は契約書等をしっかり読んでおき、原状回復について独自に決められた項目がないか確認しておきましょう。さらに、引っ越す前に前の入居者が付けた汚れや傷がないかをチェックして大家さんや管理会社に報告したり、写真などで記録しておくと良いでしょう。退去時に「入居した時からあったもので自分の落ち度ではない」と証明するのに役立ちます。貸主の側も、ルールについてきちんと入居者に伝える努力を怠らないようにしましょう。

「原状回復義務」

借りた物件は「元に戻して返す」
建物賃貸借契約では、「建物を貸します・借ります」という内容だけが定められているわけではありません。契約書を読めば、他にも様々な義務などが定められていることがわかります。「原状回復義務」もその一つです。原状回復義務とは、賃貸借契約が終了した後、賃借人が物件を「原状に回復して」明け渡す義務のこと。イメージとしては、観光地などで標語になっている「来たときよりも美しく」に近いでしょうか。入居が決まったときの何もない部屋の状態、退去するときはこの最初の状態に戻して部屋を返してね、ということです。
通常使用分の損耗は賃借人負担にならない
とは言え、実際には〝来たときよりも美しく〟はなりません。建物は時間が経てば劣化しますし、普通に暮らしていても部屋の設備は損耗するからです。そのため賃貸人が要求する原状回復範囲が過剰だと、賃借人は「そこまで負担するのはおかしい」ということになり、トラブルに発展する場合があります。
裁判所では、原状回復とは①建物の通常損耗分を元の状態に回復することではなく②賃借人の故意・過失等による劣化の回復を意味する、との判断を示しています。つまり、賃借人は減価償却費や修繕費用の必要経費分を賃料に含めて回収してきているので、原状回復の対象は賃借人の故意・過失等による劣化だけですよ、ということです。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」もこの考え方を取り入れています。
一方、賃借人には賃借物を善良な管理者として注意を払って使用する義務が課せられています(善管注意義務)。故意、あるいは不注意で過剰な損耗・損傷等を生じさせた場合は、善管注意義務違反。修繕費は賃借人が負担することになります。
特約にも制限がある
賃貸借契約は個別に結ぶものですから、中には経年変化や通常損耗分の修繕義務を賃借人に負担させる特約が設けられている契約もあります。しかし、最高裁では通常損耗補修特約が明確に合意されていること、つまり賃借人が通常損耗及び経年変化の範囲を明確に理解し、それを合意の内容としたものと認められること等が必要であるとの判断を示しています。ガイドラインでも、原状回復に関する特約については次のような要件が定められています。
  • 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること