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ペット禁止特約違反に基づく賃貸借契約解除

森田雅也森田雅也

2016/09/14

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ペットを飼うことが珍しくない昨今、ペットは人間の生活に欠かすことのできない存在となってきています。一方で、ペットが出す排泄物や毛などで室内が汚れたり、鳴き声や臭いなどでほかの居住者に迷惑を与えてしまう可能性があることは見過ごせません。そこで、大家さんの中には、賃貸借契約時にペット禁止特約をつけておき、借主のペットの飼育を一律に禁止している方も多いかと思われます。
それでは、借主がこの特約に違反し、大家さんに無断でペットを建物内で飼っていた場合、大家さんは、無条件で賃貸借契約を解除して、借主に建物から出て行ってもらうことは可能なのでしょうか。

賃貸借契約は継続的契約であり、賃貸人と賃借人の信頼関係の上に成り立っているものです。そのため、特約に違反して借主がペットを飼っているからといって、直ちに賃貸借契約を解除することはできず、特約違反によって信頼関係が破壊されたことが必要なのです。

借主のペット飼育が問題となった裁判例として次のものがあります。

まず、一つ目の裁判例において、借主が飼育していた犬は、体重2.5キログラム程度の小型犬であり、これまで鳴き声などによって同一建物の他の居住者や近隣住民に迷惑や損害を与えたり、建物を汚損、損傷することはありませんでした。裁判所は、借主が建物内でペットを飼育することは、特約に違反するものであるとしても、賃貸人と賃借人の間の信頼関係が破壊されたとまでは認められないとして、契約解除を認めませんでした(東京地裁平成18年3月10日判決)。

次に、二つ目の裁判例において、借主が飼育していた犬は中型犬で、屋内で飼うことに無理がある犬種であり、吠えないような特別の訓練等が施されていませんでした。そのため、その犬は近隣の犬の吠え声に対して吠え返す癖があり、他の入居者から苦情を受けていたという事情を考慮し、契約解除を認めました(京都地裁平成13年10月30日判決)。

これらの裁判例では、単に小型犬、中型犬という大きさの違いだけではなく、①吠え癖がどの程度あったのか等その犬固有の特徴、②排泄物による臭いやひっかき傷などによる建物の損傷の程度、③近隣からの苦情の有無などを考慮しているようです。

上記のように、ペット飼育禁止の特約違反だけでは契約を解除することができない場合もあるため、借主が無断でペットを飼育していた場合、大家さんとしては、まずは借主に対し、ペットの飼育を中止するよう求めることをお薦めします。そうすることで、他の契約違反があったときに、今回の特約違反と併せて信頼関係が破壊されていると裁判所から評価され、契約の解除が認められる可能性が高くなるでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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